2016年06月05日

多摩とリニア第5回 リニアをお白須に引きづり出す

 5月20日、一昨年2014年10月17日に、全国新幹線鉄道法(全幹法)9条前段に基づいて、国土交通省が認可したJR東海によるリニア中央新幹線計画の工事認可に対し、認可の取消しを求めて原告738人が東京地裁に提訴しました。当日午後から行われた訴状の提出、記者会見、院内集会とついていって写真をバシャバシャとっていたにもかかわらず、SDカードの不具合から1枚も保管されていないことが判明したので、当日の写真はありません。マスコミやインターネットでも配信されているので、すいませんがそちらを見ていただくと雰囲気がもっと伝わると思います。お題は「多摩とリニア」ですが、提訴は今後の運動の方向性を一定作ります。沿線に共通の問題であると同時に多摩沿線にも共通する問題でもあるので、ここで紹介させてもらいます。

疑問に答えなかったJR東海

 今回提訴にあたって、沿線住民団体を横断する「リニア中央新幹線沿線住民ネットワーク」の川村晃生さん(元慶応大教員)が記者会見で提訴の趣旨を説明してくれた。今回の訴訟は国土交通省相手で、事業主のJR東海への工事差し止め訴訟ではない。工事中止の仮処分は、大鹿の住民が本人訴訟で提訴している。川村さんは事業を認可した国の責任を問うことで、「どういう国家像を作るか」日本の将来を占う重要な裁判として裁判を位置づけたとうことと、疑問点に対してまともに答えないまま進む事業のあり方への不満や怒りがあった、という。具体的には、提訴することで国や参考人になるであろうJR東海から情報を引き出すのだという。

 ちなみに、認可に対しては異議申し立てという手続きもあって、ぼくも含めてこちらは5048人が申し立てに参加している。希望があれば口頭での陳述の機会も保障されるのでぼくも希望を出していたものの、その後国土交通省からは何の音沙汰もない。業を煮やして、異議申し立ての参加者の中から738人が原告になり、22人の弁護団を編成して提訴した。サポーターは1000人になった。東京、神奈川ではそれぞれ74人、211人が原告になった。土地や家屋、木などの物権的権利がある原告は205人。騒音や工事車両の排ガス、日照、水資源などの景観や環境の権利侵害の被害を受ける原告は645人。ぼくは提訴には加わらなかった。経済的な理由と、運動が訴訟に収れんされるよりも別の動きを作りたいなという思いはあった。

 とはいえ、原告になった人たちの気持ちはよくわかる。こういう陣容でも整えなければ、JR東海は「大丈夫だ」と言うだけで、情報を出さず住民の不安や疑問に答えようとはしなかった。だいたいがパブリックコメントでは73%が反対意見を寄せている。なのに説明会での質問を3つに絞って再質問を許さなかったり、時間がきたら説明会を打ち切ったり、事務所に説明を求めて来た来訪者の人数を絞ったり、果ては、大鹿村では「誠意を見せる」と言って事務所を置いたにもかかわらず、住民がネットをやっているからという理由で、「広報を通せ」と追い払う。その上広報からは事務所で対応するように言われたのか、事務所から電話が来たりして(それもその方が村の対策委員だからだろうけれど)、身内の責任のなすり合いのしわ寄せを住民に押し付ける。傲慢かつみっともないことこの上ない。

現場では理不尽なことが多い。国は民間事業だと言い、JR東海は国の認可を受けたという。JRは全額自己負担と言って認可を求めたのに、不動産取得税などの非課税を国に無心してすでに国税は投入されている。JR東海の広報は、「国費投入もありうる」とぼくが記事に書いたら激しく否定したくせに、国が国費投入を公言し始めても、文句をつけた形跡がない。民間事業なら一私鉄の事業として鉄道法でやるべきなのに、JRは現場では全幹法を持ちだして地権者に定額での補償を押し付ける。

大手マスコミの情報談合

そんな中で、JR東海がご説明作戦で記事を出した雑誌社に圧力をかけるのはすでに書いたけれど、さまざまな理不尽を問題だとも思わない大手マスコミの責任は大きい。

 この日も毎回の恒例とはいえ、横断幕を掲げての入場シーンが撮影された。こういうのは司法記者クラブの幹事社と原告側が事前に打ち合わせてのものだ。撮影者というのはきれいな画を撮りたがる。原告の中から撮影者が脇で写真を撮っていると、大手のカメラマンの中から離れてくれないか注文が来たりする。こういうのは掟を知らない取材者を邪魔者扱いするいい例だ。記者クラブというのは、フリーランスを締め出して、大手マスコミが情報カルテルを結んだ談合組織だ。こういう記事の作り方ばかりしていると、当事者への不公正とかは自分では判断するものじゃないという気分になってくるだろう。だから提訴でもして大げさにしないと記事にならない。

 記者会見では、元大手新聞社にいたフリーランスが「全国的に議論になっていない報道の姿勢についてどう思うか」という質問があった。川村さんは「不満がある」と素直に答えていた。情報開示がなされないから報道もしにくいだろうけれど、だからといって調査報道をしない理由にはならない。

 ぼくが裁判所前で「楽な仕事ばっかりしてなくて、現場行けよ」と悪態をついたら、大鹿の釜沢から来たTさんに「ぼくに言わないでもっと大きい声で言ってくださいよ」と突っ込まれた。小心者なので、それ以上言わなかったけど、記者の一人が振り返っていた。もちろんこの日の紙面は、舛添の記者会見のほうが大きかったのは言うまでもない。(『府中萬歩記』より、宗像充)
posted by リニア新幹線を考える登山者の会 at 16:40| Comment(0) | エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月08日

多摩とリニア第2回 相模原に駅ができる! あなたは乗りますか(その1)

リニアが報道されない理由

 2027年開業のリニア中央新幹線。10兆円の巨大開発ながら、夢は語られてもその弊害についてはなかなかメディアで取り上げられない。だから「今どきそんなもの」と思う人はいても、具体的な反対運動はなかなか目に見えない。リニアは新幹線の3倍以上の電力を消費する。柏崎刈羽や福島の原発から送られる電気は、大菩薩を超えて100万ボルトの巨大送電線網で、リニア実験線に隣接する東山梨変電所へと送られる。物理的にも原発とリニアと直結しているのだけれど、何かと原発とリニアは共通点が多い。「原子力の平和利用」の夢ばかりが語られてきたのは、東京と大阪を一時間で結ぶ「夢のリニア」が語られているのとよく似ているのだけれど、これにはもちろんカラクリがある。

 一時、NHKの会長は建設主体のJR東海の副会長経験者だった。その人事の背景にいた、JR東海の名誉会長で名古屋財界のトップの葛西敬之は、安倍首相とお正月にゴルフまでする仲良しでと、大手メディアがビビる理由はある。雑誌や新聞がキヨスクに置いてもらえなくなればたいへんだ。それ以外にもフリーランスの記者が、雑誌にリニアに批判的な記事を書くと、JR東海の広報部が4〜5人で編集部に押しかけて圧力をかける。実はぼくもこの被害に遭った。

山と渓谷社の雑誌で記事を作った際、リニアについての質問を箇条書きにしてJR東海の広報部に送った。その間にJR東海の広報部からは、企画書を出せとか、逆に写真を提供しようかとか、余計なことも言われた。それだけでなく、記事ができると、2回の記事に対して、それぞれ10数カ所、5カ所のクレームが入り、案の定、広報の社員が資料とともに編集部に「ご説明」に上がった。

1回目のときはぼくにも数値の誤りがあったものの、2回目には事実関係に特に誤りはなく、見解の相違によるいちゃもんだった。たとえば、中間駅を「実質無人駅」と書くと「施設管理の人はいるので無人駅ではない」という具合だ。このやり取りは、こちらからデータを出せ、計算式を出せと言うまで何回も続く。山と渓谷社の編集者の方が、それなりにどっしりと構えてくれていてくれたし、ぼくもそういう可能性はあると事前に言っていたのでまだよかった。JR東海に取材拒否に遭ったり、雑誌から切られたりしたフリーランスもいる。上部からの圧力で出版が取りやめになった事例もある。

先行した誘致運動

話が多摩とちょっとそれたけれど、ジャーナリストへの口封じとともに、誘致活動がずっと以前から沿線自治体を中心になされてきたのが、住民が声を上げにくい背景にある。すでに1979年には、沿線各県で「中央新幹線建設促進期成同盟会」が発足していて、御用学者によるシンポを繰り返しながら、現在は「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会」に改称して誘致を継続している。各県にも期成同盟会がある。だいたい沿線自治体は、静岡県以外は都府県も市町村もみんな入っているので、工事による住民生活への影響が大きいとアセスの過程で判明しても、すでに首長のレベルでは足抜けができない体制ができあがっていた。

放射性廃棄物の処理の問題では、西日本の自治体の議員に現ナマをばらまき、住民をオルグして六ケ所の再処理工場の視察旅行に招待するという、露骨な住民懐柔策が採られた。大月にあるリニア実験線を望む、山梨県立リニア見学センターを見に行くと、平日にもかかわらず観光バスと団体客で大賑わいだった。これはおそらく、期成同盟会に所属する市町村➡自治会を通じて、リニア見学ツアーが組織的に組まれてくるからで、実際、知り合いの中には回覧板でその案内を受け取った人もいた。これだけ夢がばらまかれると、「夢から覚める」のも難しいし、覚めたところでなかなか起き上がれない。

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駅前の農業高校

 相模原市の京王線のターミナルで終点、JRの相模線のターミナルで八王子線の駅に橋本駅がある。品川駅から大田区や世田谷区を地下で通過したリニアは、中原区の等々力緑地から川崎市内に入り、中原区、高津区、宮前区、多摩区、麻生区の順で、川崎市内20kmを横断し、南多摩の町田市を経て橋本駅に至る。そこから先の相模川の上流は、津久井湖や相模湖の広がる風光明媚な場所で、相模川を横断する以外は同志山塊をやはりトンネルで通過して山梨の実験線へと至る。

 広い意味での多摩地域の地下をリニアが通過し、その沿線発展の一里塚がこの橋本駅ということになる。とはいっても駅も地下で、中間駅に止まる「鈍行」は一時間に一本しか、JR東海は今のところ予定していない。リニアは早くないと意味がないので、中間駅を設けるなら自治体負担をJR東海は望んでいた。ところがそれでは自治体が反発し、結局中間駅はJR東海が、駐車場やアクセス交通機関などの周辺整備は自治体が担うことになった。だから中間駅は実質無人駅で待合室もない。そもそもチケットは事前購入でグリーン車・普通車の区別のない全席指定で、遠隔操作のため運転手もいない。時速500km、1000人乗りの水平式ロケットに乗せられるようなものだ。

そしてぼくたち「多摩」の駅は、橋本駅の南側、現在相原高校という、もともと農業高校だった総合高校の敷地が予定されている。(つづく)
(『府中萬歩記』24号、宗像充)
 

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posted by リニア新幹線を考える登山者の会 at 13:53| Comment(0) | エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月04日

多摩とリニア 第一回

多摩とリニア 第一回


 東京新聞の2015年12月17日夕刊には、「水害避難場所×リニア工事残土➡葛飾の公園高台化」という記事が紹介されていた。東京都は海抜0m地帯が多く、大規模水害が生じれば都市機能がマヒすることがかねがね指摘されてきた。東京新聞の記事の構想は、荒川周辺の海抜0m地帯にある新小岩公園に、50mプール220杯分、22万㎥の残土を運び、最大6m公園を高台化するというものだ。その残土にリニア中央新幹線の工事残土を利用するのではないか、というのだ。

これは国土交通省の事業で、「大規模水害で甚大な被害が予想される東京東部の自治体が高台整備を希望すれば、盛り土のために、首都圏の建設工事で発生した残土の処分先を探している業者を国が仲介する仕組み」だそうだ。ちなみに東京新聞は、東京都が東京オリンピックの首都の建設ラッシュで、建設残土の大幅な増加を見込んでいることも報じている。

16.JPG境川の実験線の残土置き場。

 「多摩とリニア」というお題をいただいて、地域の問題としてリニア中央新幹線を位置づけるということを、これまでさぼってきたと痛感した。

ぼくは山に登るので、自分が以前登った南アルプスの自然破壊の観点からこの問題に取り組んできた。南アルプスは3000m級の山々が連なる日本を代表する山脈で、道路やトンネルなど山脈を横断する人工物のない地域だ。そこにトンネルを掘るのに反対するということが、イコール「超電導リニア」という宇宙開発級のプロジェクトへの反対となるのだから、当初は荷が重く感じた。いつもの通り、誰か別の人がやってくれないかなあと思っていた。それでも南アルプス山麓の人たちと知り合いになって、その怒りや不安と接すると、それなりに運動にも本気になってきた。

本当にこの「鉄道」ができた場合、利用する側は専ら都市住民だ。原発の電気を使うのは東京の人で、ツケを負わされるのは専ら福島の人たち、という構造はリニアでも共通している。飯田まで20分で行けるからといって、それに乗って南アルプスを目指すとしたら、いい気持ちはしない。

それに消費者的には、リニアを作る金があるなら、その分東海道新幹線の運賃を安くしてほしい。国鉄の赤字を国民に押し付けて、身ぎれいになってそれで儲けた金があるというなら、地方のローカル線の維持に本来なら回すべきだろう。やってることは逆で、新幹線を伸ばしまくって在来線を寸断し、無人駅を増やしまくり、その上リニアとは、「金持ちの道楽」にしては度が過ぎる。

 とはいえ、リニアができても南アルプスがなくなるわけでもないし、自分の生活にかかわってくるというなら、国立のさくら通りの問題のほうがより直接的だ。目をつぶりさえすれば、リニア中央新幹線の問題は、多摩地域に住むぼくたちの生活と一見無関係だ。

 リニア中央新幹線計画とは、時速505kmの超電導リニアが、東京(品川)―名古屋―大阪を約1時間で結び、総工費は10兆円。事業者であるJR東海が全額負担する。2027年の品川―名古屋間の開業を目指して、すでに一昨年工事認可がなされて、品川・名古屋駅で工事が着工し、昨年末、南アルプストンネルの山梨県側で起工式が行われた。

それでもこの事業は予定通りにはいかないだろうと、大方の人が予想している。断層・活断層の走る南アルプス山岳トンネルの難工事で経費が膨らむと、新国立競技場のように、国費投入が議論になる。何より、全線の84%が地下で、発生する工事残土の行先が今もって不明なのだ。ぼくが昨年10月にJR東海に、決定した残土の行先の割合を聞いたところ、26%という答えが返ってきた。土砂の行き場が決まらないのにトンネルは掘れない。


この近辺では、東京の品川から大田区や世田谷区を通り、多摩川を渡って神奈川県に入る。さらに相模川と道志川を渡って山梨県の実験線につながる。東京都、神奈川県の走行距離は約60kmで、相模川、道志川の鉄橋以外はすべて地下40mの大深度トンネルを通過する。多摩地域では町田市が工事予定地になり、神奈川県相模原市の橋本駅に中間駅が予定されていて、1時間に1本「鈍行」が止まる。

5〜10kmおきに立抗が掘られてそこから残土が排出され、完成すれば非常口になる。発生する残土の量は、東京・神奈川だけで1740万㎥で東京ドーム14杯分。東京新聞によれば、2012年度に都や区市町村などの公共事業で発生した残土の量が300万㎥なので、その量の5、8倍。川崎市では昨年11月の市議会で梶谷貨物ターミナルまで残土が鉄道輸送され、その後海上輸送されることが明らかにされているものの、その先の処分先は明らかになっていない。

それで冒頭の話に戻るわけだ。

もちろん、事業者側にしてみれば、路線の工事現場近くに処分先があればそれに越したことはない。トラック輸送だと周辺住民の不満も高まる。行先の余裕はなく東京東部の海抜0m地帯が取りざたされたというわけだ。

多摩地域に、こういった大量の残土の処分地は現在あるだろうか。なければ東京東部のように、かつて多摩川でも構想があったスーパー堤防が再浮上するのだろうか。長野県大鹿村では、必要性もないのに、工事車両の量を抑えるためにグラウンドのかさ上げが検討されている。現時点ではぼくにはわからない。でも工事が止まらない限り残土が消えてなくなることはけしてない。(『府中萬歩記』23号、宗像充)

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posted by リニア新幹線を考える登山者の会 at 21:05| Comment(0) | エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする