昨年、山と渓谷の取材で静岡県側の南アルプスに入りました。
南アルプスの二軒小屋周辺に出かけるには、静岡市内からでも丸一日かかります。
かつて東海パルプの森林伐採やダム造成で開発されつくした感のある
大井川流域ですが、現在は、東海特殊製紙の子会社、東海フォレストが管理し、
宿泊施設や管理釣り堀を営業しています。
以前、テレビ番組の取材で赤石沢に入ったことがありましたが、
とにかく遠いという印象しか残りませんでした。
南アルプスを守りたいといっても、遠い、山が大きい、という程度の
形容しかできなかったので、山に入る直前に静岡大学の増澤武弘さんを訪ねました。
現在、南アルプス周辺自治体は、南アルプスの世界自然遺産登録を目指していて、
そのステップとして、昨年6月ユネスコ・エコパーク(生物圏保全地域)登録を成功させました。
ユネスコ・エコパークというのは、自然と人間の共生のためのモデル地域ですが、
日本では、1980年に白山・大峰・屋久島・志賀高原が認定されて、
そのまま忘れ去られ、地元も知らなかったというところがありました。
この制度が日本で再度注目されたのは、
2012年に宮崎県の綾地域が認定されてからです。
自然の利活用による持続可能な地域として「移行地域」が設けられましたが、
この新型ユネスコエコパークの認定1号が綾。
2・3号が南アルプスと只見、ということになります。
増澤さんは、この南アルプスユネスコ・エコパークの立役者の一人です。
南アルプスの自然の価値について、学術的な裏付けを提示してきました。
現在、南アルプスのユネスコ・エコパークのコピーは
「高い山と深い谷」とされています。
谷と自然の水によって、文化が育まれてきた。
南アルプスの山々は3000m級の山々が連なり、
日本の3000m峰のうち9座があり、
深田久弥は10座を日本百名山に選んでいます。
一日亜高山帯の針葉樹林の中を歩き、
稜線に出てから(雪山じゃなくて)夏山装備で歩き回れる。
そんな地域は世界的に見てもほかにないのだそうです。
できるだけ自然を残し活かすために、
静岡県側はアセスとは別個に委員会を作り、
独自の調査を行い、工事の施行方法などでJR東海にいろいろと
注文を付けてきました。
単なる工事現場に過ぎない場所でも環境が人為的に保全された地域もあるのです。
その1カ所が、西俣に予定された坑口予定地、柳島(どっかの村長じゃないよ)。
小学校の小さなグラウンドほどの広がりがあるのですが
ここは河岸段丘の低位段丘面にできた地形。
東海パルプは切り出した材木をここに集積し、
人為的なダムの決壊による、材木の運搬方法、鉄砲を
ここで行っていました。
したがって、ここはそのために保全されてきた地域とも言えます。
周辺の上部にはツガやミズナラの自然林が残っており、
ここは「1セットの自然」だと増澤さんは言います。
広場の奥には大木もあるのですが
これらは材木を留めるために使っていた木だそうです。
JR東海はボーリング調査によって、これらの木の半分を切り倒しました。
すでに環境破壊は始まっていました。
森林伐採が自然の持続可能な利活用にあたるかは
話して決めることかもしれませんが、
少なくとも、リニアの工事が持続可能なものではないということはよくわかります。
電源の鉄塔などの計画で上部の森林を切ることはアセスにも入っていない
ヤードも自然林の伐採すれば問題、と増澤さんは言っていました。
素人目にも大丈夫かなと思ったのが、
昨年、東海特殊製紙の工事が入って、春先に斜坑予定地まで
サービスで林道を造成したのですが、
ぼくが行った10月頭には、すでに3カ所で道が崩壊しており、
落石が林道上に散らかっているところもありました。
二軒小屋で小屋の人は「あんなに壊れるのにどうするの」と
JR東海は本気か? みたいな口調で呆れていました。
ご他聞に漏れず、周辺も崩壊地形があり、
ここが完成後は、非常口による避難場所になるのかと思うとぞっとします。
JR東海は問い合わせに対して、青函トンネルにもあった
ケーブルカーなどの施設は作らない、
救助体制は現行で大丈夫と言っていましたが、
そんなわけありません。
ここは冬は人が入れませんし、雪崩の危険もあるでしょう。
夏も洪水の危険があります。
今年、静岡の山岳会の方たちが現地を見てきました。
現地で今年どのような工事が進んでいるのか。
10日の報告集会で注目です! (宗像)