「理解は深まった」のか―大鹿村工事説明会―
平日の夜の開催にもかかわらず、説明会には約110人が集まった
8月24日、大鹿村で開かれたJR東海の工事説明会を傍聴しました。
この説明会は、最盛期に1日1736台(この日の説明では、1350台ほどまで減らせるとしています)といわれるリニア建設の工事車両の通行を円滑にするため、村民の生命線である県道松川インター大鹿線にトンネル2本を新設し、5区間を拡幅するというものです。
JR東海は、山梨県側で昨年12月に始めたリニア中央新幹線南アルプストンネルの長野県側工事を始める前提として、「地元から要望が出されている」(JR東海の澤田尚夫・中央新幹線建設部担当部長)道路改修工事の着手を急いでいるのです。
工事説明会についてJR東海は当初、報道機関に対して「非公開」としていました。ところが、村リニア対策委員会や地元の報道機関から抗議の声が上がると、今回は県との共催であることを理由に、県の公共事業のやり方に準じるとして、「公開」としました。
それでも、「工事説明会は、自治会といった小さな単位で、個人的な事情も聞きながら、忌憚のないご意見を言っていただく場」(澤田部長)だとして、今後の「非公開」の方針を変えていません。
このブログで既に報告されているように、26日の釜沢地区での説明会は、報道機関を入れないだけでなく、地区以外の村民の参加さえ拒むという厳戒態勢の下、行われました。
24日午後7時から開かれた工事説明会には、平日にもかかわらず110人が集まりました。JR東海と県の説明を受け、会場から上がったのは、発生する残土の置き場が決まっていないのに工事説明会を行うことや、説明会を1回だけ、それも平日に行うことへの不満の声や、大量の工事車両による渋滞、排気ガスや狭い道でのすれ違いなど、日常生活を長期にわたって脅かす工事への切実な不安の声でした。
ある女性は「住民の生活のために道路やトンネルを造るのなら、まずそれができてから南アルプストンネル、というのが筋の通った順番だと思う」と、道路改修と南アルプストンネル両工事を並行して行おうというJR東海の計画について疑問を投げかけました。
これに対し、澤田部長は「(南アルプストンネルの)発生土を運搬するときに、大量の工事用車両が出るので、それは道路改良が終わってから。南アルプストンネルに着手しても、発生土を運ぶ作業は道路改良が終わってから、という話をさせていただいている」と、従来の説明を繰り返しました。
冒頭のあいさつをする澤田部長、その左は永田副長、その左上野分室長
隣の中川村で前日に開かれた工事説明会では、トンネルの発破作業の騒音や振動に懸念の声が出たのにも関わらず、「住民の理解は得られたと考えている」と澤田部長が述べた、と報じられました。
大鹿村リニア対策委員会メンバーの前島久美さんはこの報道に触れ、「少なくとも、この大鹿での工事説明会が終わった後に、理解は得られたと勝手に考えて、こういった発言をするのはやめてください」と念を押しました。
ところが、2時間近くに及ぶ工事説明会の後、澤田部長は報道陣に対し、「私としては、村民の方のご理解は深まったという感触を持っている」と述べました。
「きょうの説明会をもって、理解したと言ってほしくないという強い意見もあったが」と地元記者が問うと、澤田部長は「大鹿村に1000人いらっしゃると思うので、全員がリニア、道路改良工事に対して、賛成ということではないと思う。しっかりしたポリシーなんか持っている方もいらっしゃるので、反対というところから賛成だとならないと思う」とし、「そういう方が大半の意見かというと、そうではないと思っている」と主張しました。
そう判断する根拠について、質問した人の多くが以前の説明会でもよく質問している、としたうえで、「これまでの説明会、(村の)リニア対策委、大鹿に人を置いている(JR東海大鹿分室のこと)ので、そういったところや村役場とのやり取りを踏まえ、私としての感触は、リニアの道路改良工事を着手する土壌は十分整ったと考えている」と説明しました。
翌25日の村リニア対策委に先立ち、前島さんたち村民が作る「大鹿の100年先を育む会」は、工事説明会への抗議文をJR東海に提出し、道路改修工事の中止を求めました。
この日の議題は「南アルプストンネル工事説明会の内容について」。冒頭、前島さんは「昨日の工事説明会の会場の雰囲気は、次のステップに進めるようなものではなかったと思う」と抗議しました。が、対策委会長や柳島貞康村長はそれを押し切り、次の工事説明会に向けた事前説明をJR東海に始めさせてしまいました。
対策委終了後の報道陣の囲み取材。澤田部長は、道路改修の準備工事を週明けの29日から始めることを明らかにしました。終わりがけ、次のように問いかけてみました。
私「住民理解ということで、もう一度うかがいたい。工事説明会を行ったということで、それは住民の理解を得られたとお考えになるということか。これからも」
澤田部長「それはまだやってないんで」
私「どれだけ反対意見が出ても、『理解は深まった』と毎回、おっしゃるわけだが」
澤田部長「その都度その都度、私は判断しているつもり。毎回決まりきったことを言っているんではなくて」
名古屋市の名城非常口建設工事も、多くの疑問が投げかけられた説明会の直後、着工しました。
住民が生活を懸けて臨む説明会も、JR東海にとっては「住民のガス抜きの場」ぐらいの位置づけでしかないということなのでしょうか。
(井澤宏明)