2016年03月03日

リニア“最大の難所”南アルプストンネル、真の懸念は 高速鉄道の未来占う

http://trafficnews.jp/post/47465/

2015年末、ついにリニア中央新幹線の工事が本格的に始まりました。標高3000m級の山脈を貫き、土被りの量が1400mにもなる南アルプストンネルが“最大の難所”とされますが、懸念があるとすれば、その本質は「土被りの量」ではないでしょう。

「スカイツリー」2本分以上

 2015年12月18日、JR東海リニア中央新幹線で“最大の難所”とされる長さ25km19mの南アルプストンネルにおいて工事を開始。これにより「超電導リニア」を用いた“新世代の高速鉄道”建設が、いよいよ本格的に始まりました。

 JR東海がこの中央新幹線を建設する理由については、開業から50年以上が経過した東海道新幹線の経年劣化、東京〜名古屋〜大阪という需要の非常に大きな区間における大規模災害時の代替ルート確保、また企業としての存在基盤を将来へ向かい確保していくことなどが挙げられます。

2015年4月に603km/hという「鉄道としての有人走行の世界最高速度」を記録し、ギネスに認定された超電導リニア(写真出典:JR東海)。

 しかしそれが計画通りに現実化されるのか、懸念があるのも事実。“最大の難所”とされる南アルプストンネルは、そのひとつです。

 12月18日に行われた南アルプストンネル建設にあたっての安全祈願では、記者からもその“難しさ”に関する質問が出ています。

 そこで、同トンネルを施工する共同企業体のひとつ、大成建設の村田誉之社長はその“難しさ”を語るにあたり、最初に口にしたのは「1000mを越える土被り」についてでした。

「土被り」とは、簡単にいえば地表からトンネルまでの深さ。標高の高い場所でトンネルを造る場合、できるだけ土被りを小さくするのが一般的な考えか たです。しかし、南アルプストンネルはその名の通り標高3000m級の南アルプスを貫くため、最大で地表から約1400mも深い場所に穴を掘ります。高さ 634mの「東京スカイツリー」を縦に2本並べたよりさらに深い場所、ということです。


本家アルプスに比べれば簡単?

 しかし約1400mという土被りは、“前代未聞”とは表現できない数字でもあります。

 ヨーロッパの“本家”アルプス山脈を貫くスイスのゴッタルドベーストンネルは、土被りの量がさらに1000m近く多い約2300mで、すでに2010年10月に貫通しています。

 また日本でも標高1977mの谷川岳直下を貫き、群馬県と新潟県を結ぶ上越新幹線の大清水トンネルは、土被りが約1300mです。

 そのためJR東海と独立行政法人の鉄道・運輸機構は南アルプストンネルについて、「上越新幹線大清水トンネル(延長22.2km:最大土被り1300m)、東海北陸自動車道飛騨トンネル(延長10.7km:最大土被り1000m)での施工実績や、これまでに得た地質性状から判断すれば施工可能である」とした資料を国土交通省へ提出しています。

 ただ地質や地層が異なるため、トンネル掘削の難易度を単純に比較することはできません。大成建設の村田社長は合わせて南アルプストンネルについて、「多い湧水、複雑な地層」など、いくつかの難しさがあると話しました。

膨張し内側へ膨れた北陸新幹線の飯山トンネル(画像出典:国土交通省)。

  また先出のJR東海と鉄道・運輸機構の資料においても、「地山からの高圧湧水、糸魚川・静岡構造線等に伴う破砕帯周辺における切羽の自立性ならびに大量湧 水、大土被り区間における塑性押出しなどが考えられる」とされました。「塑性押出し」とは、簡単にいえばトンネルが土の圧力によって内側に押されることで す。


“豆腐の山”にトンネルを掘ったことも

 新潟県を走る第三セクター鉄道北越急行線に、長さ9117mの鍋立山トンネルという“土木建設史上で屈指の難工事”として知られるトンネルがあります。掘っても掘っても内側へ押し出てくる膨張性地盤で「豆腐の山にトンネルを通すようなもの」とされましたが、色々な工夫を駆使して開通し、上越新幹線と連携して東京と北陸を結ぶ在来線特急「はくたか」のルートとして活用されました。

 また長さが53.9kmと世界一で、しかも海底から100m深い場所を通すとして1961(昭和36)年に着工された青函トンネルはそれこそ“前代未聞”でしたが、在来線用として開業したのち、今年2016年にはついに北海道新幹線が走り出します。

 リニア中 央新幹線の南アルプストンネルについても、懸念があるとすれば、環境対策などを含めたその工事自体の“単純な難しさ”ではなく、計画通りに建設が進捗し、 予定通り2027年に品川〜名古屋間が40分で結ばれるかどうかです。先述の鍋立山トンネルも青函トンネルも様々な困難から、完成まで20年以上という長 期間を要することになっています。

 南アルプストンネルで予定されている工期は10年。その進捗が中央新幹線、そして海外への展開も考えられている新世代の高速鉄道「超電導リニア」の将来を占う、としても過言ではありません。

2015年12月18日、南アルプストンネルの建設にあたり安全を祈願するJR東海の柘植社長(写真出典:JR東海)。

「大成建設、佐藤工業、銭高組というボスポラス海峡にトンネルを造った最先端の企業が施工しますので、我々は全幅の信頼をおいております。遅れることは考えておりません」

 JR東海の柘植康英社長は南アルプストンネル建設の安全祈願で、このトンネルが持つ意味を物語るように、特に力強く、そう話しました。

 ちなみに、中央新幹線で最も長いトンネルは南アルプストンネルではなく、品川〜神奈川間の第一首都圏トンネルで、36km924mです。

【了】

Writer: 恵 知仁

鉄道ライター、イラストレーター。「鉄道」や「旅」に関する執筆活動や絵本の制作を行っているほか、鉄道車両のデザインにも携わる。子供の頃からの 旅鉄&撮り鉄で、日本国内の鉄道はJR・私鉄の全線に乗車済み。完乗駅はJRが稚内で、私鉄が間藤。メインは「鉄道」だが、基本的に「乗りもの」好き。

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27年開業なるか?リニアの行く手阻む最難関

全長25qの「南アルプストンネル」が着工

2027年の開業を目指し、最難関とされる南アルプストンネルの工事が始まったリニア中央新幹線(撮影:尾形文繋)

2027年の開業を目指す「リニア中央新幹線」。品川〜名古屋間約286kmのうち、工事の最難関といわれている南アルプストンネルの工事が2015年12月18日、山梨県側の「山梨工区」で始まった。

標高3000m級の山々が連なる南アルプスを貫き、山梨、静岡、長野の3県にまたがる全長約25kmの長大トンネルは単に長さだけでなく、土かぶり(地表面からトンネルまでの深さ)も1000m以上に達する難工事だ。

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安全祈願の式典で鍬入れを行うJR東海の柘植康英社長(左)と大成建設の山内隆司会長

「難しい工事ですから水や地層の問題はいろいろあると思いますが、遅れることは考えておりません」。同日行われた安全祈願の式典に出席したJR東海の柘植康英社長は、報道陣からの質問に強い口調でそう答えた。

難工事が予想されるこのトンネルから本線の本格工事が始まったのは、南アルプストンネルの工事の行方がまさに、今後のリニア建設全体のカギを握る区間だからだ。

全線のうち86%がトンネル

リニア中央新幹線は品川駅を起点に、神奈川県相模原市、山梨県甲府市、長野県飯田市、岐阜県中津川市に設けられる中間駅を経て、名古屋駅に至る全長 約286kmを結ぶ路線。開業後は最高時速505kmの超電導リニアが全線を最速40分で結ぶ予定だ。建設実施計画が認可された2014年10月時点での 総工費は5兆5235億円で、全額をJR東海が自己負担で賄う。

全線のうち約86%にあたる246kmはトンネル。その中でも山岳トンネルとして最も長いのが全長約25kmの南アルプストンネルだ。今回着工した 山梨工区の長さは約7.7km。工事を手がけるのは大成建設・佐藤工業・錢高組のJV(共同企業体)で、工期はJR東海とJVが契約を結んだ2015年8 月27日から、2025年10月31日までの約10年間、122カ月だ。


南アルプストンネル山梨工区の工事拠点となるのは、山梨県南西部の早川町。2015年12月1日現在の人口は1124人で、「日本で最も人口の少ない町」として知られる山あいの静かな町だ。

同町内には南アルプストンネルの2カ所の「非常口」が設けられる。工事はこの非常口の斜坑をまず掘り進め、その後に将来リニアが走る本線の掘削に入る。

今回、安全祈願の式典が行われたのは「早川非常口」。町名の由来となった早川沿いを走る山梨県道37号を、町役場から十数km北上した地点だ。ここにたどり着く少し手前には「国指定天然記念物 新倉の糸魚川−静岡構造線」という看板が目に飛び込んでくる。

「糸魚川−静岡構造線」は、新潟県の糸魚川市から長野県・山梨県を経て静岡市に至る、本州を横断する大断層だ。断層が地表に露出した部分である「露 頭」が観察できるため、天然記念物に指定されている。リニアのトンネル工事は、まさに地質の複雑さを物語るこの場所の付近で進められることになる。

トンネル難工事で工期延長の不安も

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早川非常口手前の道路。上を通るのが県道で、早川非常口は旧道に面している

JR東海が2013年9月にまとめた「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価準備書」によると、同社は1990年から南アルプスを通過する ルート周辺の地質調査を実施。「これまでの長大トンネルにおける事前調査としては先例のない規模での水平ボーリング」なども手掛けてきたという。

その上で、これまでに得た地質性状や、上越新幹線の大清水トンネル(群馬県・新潟県)、東海北陸自動車道の飛騨トンネル(岐阜県)の施工実績から判断して、「施工可能であると考える」と結論づけている。

飛騨トンネルとは、近年でもっとも難しいとされたトンネルだ。延長約10.7kmの同トンネルは土かぶりが最大約1000m。高圧で大量の湧水や土かぶりによる土圧によって工事は難航。開通は計画より約3年8カ月遅れ、開業までには11年1カ月を要した。

山岳トンネルは「掘ってみないとわからない」部分が多いといわれ、計画よりも工事期間が延びた例は決して少なくない。南アルプストンネルの工期が延びれば、必然的にリニアの開業時期にも影響することになる。


そんな難題が予想されるとはいえ、JR東海や建設会社は予定通りの工期を見込んでいる。柘植社長は「ボスポラスを掘った最先端の企業が工事をされる ので、我々は全幅の信頼を置いている」と語った。「ボスポラス」とはアジアとヨーロッパを隔てる海峡として知られるトルコのボスポラス海峡のこと。 2013年10月に開通したその海底トンネルを建設したのは、南アルプストンネル山梨工区のJVの一員である大成建設だ。

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実験線のトンネルを抜けて疾走するリニア。品川〜名古屋間はトンネル区間がほとんどを占める(撮影:尾形文繋)

安全祈願の式典に出席した同社の村田誉之社長も、南アルプストンネルについて「難しさはいくつかある」として地質の複雑さや湧水の多さなどを挙げた上で「技術を進化させる大きな夢のプロジェクト。技術を結集し、一つ一つやっていきたい」と答えた。

慢性的な人手不足の中で工期についても「これは国家的プロジェクト。調達含めてしっかりとできることになっている。ご心配ございません」と述べた。

各地で動き出す建設工事

南アルプストンネル・山梨工区での工事はまず非常口から斜坑を掘り進み、本線トンネルの建設は「NATM(ナトム)」と呼ばれる山岳トンネル工法で 行われる。発破によって掘削を進め、アーチ形の支保工によって支えながらコンクリートを吹き付け、さらにロックボルトと呼ばれる棒を打ち込んで全体を安定 させるという工法だ。

将来リニアが最高時速500kmで走り抜ける本線トンネルはカマボコ型で、幅は約13m。本線トンネルの掘削は「順調に進めば2016年秋から」(JR東海)始まる予定だ。

3つの工区に分かれた南アルプストンネルの他の工区は、長さ約8.4kmの長野工区の施工者が2015年度内には決まる見込みだ。このほか「駅の下 にもうひとつ駅を造る難工事」(柘植社長)である品川・名古屋の両ターミナルについても、2015年秋には品川駅北工区・南工区の施工者が決定し、リニア 中央新幹線の実現に向けた工事は各地で動き出している。

しかし、トンネル区間が大半を占めることから大量に発生する残土の処理や工事に伴う環境保全、さらには用地取得などまだまだ数多くの課題が山積している。建設が本格化していく2016年は、リニアをめぐる動きがこれまで以上に注目される年となりそうだ。
posted by リニア新幹線を考える登山者の会 at 18:09| Comment(0) | 報道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする