2016年03月29日

毎日新聞:リニア中央新幹線建設 阿智村独自の社会環境アセス 


リニア中央新幹線建設 阿智村独自の社会環境アセス 生活への影響に特化 住民の意向どこまで /長野

毎日新聞2016年3月27日 地方版

 JR東海が2027年に品川−名古屋間の開業を目指しているリニア中央新幹線建設計画で、阿智村が独自にまとめた「社会環境アセスメント」が注目を集めている。事業者による環境アセスは、工事によって自然環境に与える影響を国の基準で評価するのに対し、社会環境アセスは工事車両の通行などに伴う住民生活や観光産業への影響を客観的なデータで推計する、全国でも先進的な試みだからだ。アセスの狙いと今後の課題を取材した。【湯浅聖一】

 「国の基準で事業の是非を判断するのが一般的な環境アセスだが、地域の特性や課題に即した社会的影響も考慮する必要がある。議論のベースはできた。村はJR東海と協定締結という形で協議してほしい」。4日、阿智村コミュニティ館で開かれた村社会環境アセスメント委員会の報告会。1997年に浮上した県の産業廃棄物処分場計画で、当時村長として初めて社会環境アセスを実施した岡庭一雄会長は、アセス委の意義をこう語った。

 村内では、南アルプストンネルを掘削する際に発生する残土の運搬が、住民の大きな不安になっている。JRの計画によると、工事期間中に残土運搬車両が国道256号を1日最大920台、作業用トンネルの坑口にあたる清内路地区の村道を同230台が通る。国道沿いには年間70万人の観光客が訪れる昼神温泉郷があり、村道は生活道路でもある。観光産業や住民生活への影響は必至だ。

 村はJRに工事専用道路の建設などを要望してきたが応じる気配はないため、住民自治の手法で課題解決を図ろうと昨年5月にアセス委を設置した。岡庭会長は「JRの自然環境中心のアセスに対するアンチテーゼとして提言する必要があった」と狙いを語る。

 アセス委は、国道交差点4カ所で交通量を調査。JRが見込む920台の車両を加えると、ピーク時(午前8〜9時)の大型車両は、昼神温泉入り口で現在の40台から152台、中央自動車道園原インターチェンジで25台から137台に増加、3台に1台が大型車両の通行になることが判明した。

 他に16歳以上の村民と観光客を対象にしたアンケートや、温泉旅館経営者への聞き取りなど、六つの調査を実施。大型車両の通行で「自然環境の破壊」「居住環境の悪化」が心配されると回答した住民が75・4%に上った。これらの結果を基にアセス委は、残土運搬車両の大幅削減など11項目の提言を報告書にまとめ、熊谷秀樹村長と村議会に提出した。

 アセス委の岡庭会長は「大型プロジェクトの議論では地元住民が賛成と反対に分かれ、感情的になるのが常。アセス委は住民が同じテーブルに着き、生活への影響に特化したことで共通の価値観を持つことができたのではないか」と評価する。

 半面、アセス委が村に求めた内容はハードルが高く、実現性を懸念する声もある。村もJRとの協議が容易でないことを認めたうえで「具体的にどう進めるかを検討している。アセス委の提言を最大限尊重する形で協議したい」と話す。

 超大型プロジェクトに住民の意向がどこまで生かされるか。村の手腕が問われている。

 ◆社会環境アセス委報告書骨子

・残土運搬車両の大幅な削減

・「花桃まつり」開催中の残土運搬中止

・ガードレールや信号機の設置など道路の安全対策

・観光資源を保全するための協定締結

・自然環境や地域経済への悪影響を避けるための代替案協議

・生活環境保全のための協定締結

・村内各地区が策定した地域振興計画の尊重

・交通事故防止対策

・定住政策への阻害要因防止

・観光客が事故や渋滞に巻き込まれないための対策

・土曜、祝日の工事車両通行の再検討
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導水路の環境保全を リニア計画、静岡県がJRに意見書

http://www.at-s.com/news/article/topics/shizuoka/linear/214115.html
(2016/2/26 08:18)

     静岡県は25日までに、リニア中央新幹線計画で県内区間に建設する導水路トンネルについて、万全な環境保全措置を講じるよう求める意見書をJR東海に提出した。建設開始までの実施手順を示すとともに、環境保全協定を県と結ぶよう要請した。
     導水路トンネルは大井川中下流域で懸念される河川流量減少への対策。延長距離が11キロ超に及び大規模な土地改変を伴うが、建設構想は環境影響評価手続き終了後に持ち上がった。
     意見書は、十分な議論が交わされなかったとして県側の姿勢を明示した。水枯れが心配される導水路トンネル直上の河川や沢について、リニア本線からくみ上げた湧水を「複数の地点で放流することが望ましい」と指摘。継続的な流量解析や、希少種であるヤマトイワナなどの増殖事業への支援も求めた。
     また発生土(残土)置き場の計画管理にも触れ、恒久的な安定を確保するため、周辺地形のモニタリングを行うよう念押しした。
     意見書は、難波喬司副知事や関係部局の部長らで構成する県中央新幹線対策本部が取りまとめた。
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早川の流れ

【2016年3月5日の早川のレポートです】
 
 富士川沿いに静岡県へと向かう国道を途中から分け入ると、支流の早川は両岸が迫る。トンネルをくぐり、大小さまざまの橋を渡り、二車線の県道は一路北へとのびていく。途中、ユネスコエコパークの大きな看板が目に入る。
一昨年、南アルプスは自然と人間との共生を目指すモデル地域、ユネスコエコパークに認定され、早川町は大鹿村と同様、持続可能な地域づくりのモデルとなる取り組みがなされるはずの移行地域に、ほぼ全域が指定されている。残りの地域は自然保護のための場所で、南アルプスの山岳地域がそれにあたる。貴重な自然を活かしながら地域生活を送る人々の取り組みが世界的に認められた。町はそれを観光資源として積極的に売っている、ということのようだ。
 ここ何年か、リニア中央新幹線が南アルプスを通過することを取り上げてきた。最初のほうは記事を作っていた。それが結局、登山者の運動も始めることになった。昨年末、JR東海は山岳トンネルの山梨県側の、坑口出入り口のこの早川町で起工式を行い、南アルプストンネルの着工を表明した。待ったなしなのに、早川町での反対の声はなかなか聞こえてこない。人を紹介してもらって直接行ってみることにした。
 早川町は南アルプスの山梨県側で、北は百名山の間ノ岳のある南アルプス主脈、西側は間ノ岳から南にのびる白根南嶺、東には櫛形山、南に身延山地の七面山がある。四方を山に囲まれていて、その間を南北に富士川へと注ぐ早川が流れている。町はこの川沿いに点々と集落として点在している。南アルプスを挟んで長野県側の大鹿村同様、日本で最も美しい村連合に加盟している。人口は1100人に少し足りないくらいで、大鹿村よりほんの少しばかり多い。
ちなみに大鹿村は長野県で一番広い村という。早川町は日本で一番小さい「町」ということのようだ。どっちのほうがすごいのだろうか。
 町に入ってしばらくすると、信仰の山、七面山への登拝の宿場町、赤沢宿へと登る道が左に分かれている。車でずっと登っていくと斜面に古い家々の集落がぽっかりと開ける。宿坊として歳月を重ねた家々が軒を重ねる。
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看板が出ていて、道路から階段を上った先にそば屋があるので入ってみると、店員さんが二人にメニューは数品で、1000円の定食でそばから天ぷらから煮つけからと、次々に出てくる。
今回の同行者は大学の山岳部のOGのKさんと、登山の雑誌の編集部にいっしょに出入りしていたTさん。リニアのことで集会をしようとわらわらと集まってきた登山者ということになる。「満足度高いよね」と三人ともただの観光客になって店から出てきた。
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休憩所兼、観光案内所の屋敷に行って、奥から出て来た若い女性にTさんが、「リニアが来るそうですが、何か変化がありますか」と聞くと「あんまりよくわかんないですよね。こっちのほうは工事現場からは遠いですし、工事車両は増えたようですが」と要領を得ない答えが返ってきた。工事が始まれば一本しかない県道に、片側、一日最大465台の工事車両が走り、326万㎥、東京ドーム3つ分くらいの土砂が排出されるはずなのに、とても関心が高いとは言えなさそうだ。

その一本の県道を北上する。前回工事現場を見に来たのは2012年だからもう4年前になる。以前は古い役場が町外れに立っていたのが、今回行くとピカピカの庁舎になって、数日後のオープンを待っていた。
途中、トンネル工事が行われる直前の集落、新倉には、プレハブの作業員の宿舎が作られる最中だった。
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以前も立ち寄ったボーリング調査のトンネル掘削の出口には、トンネルの上にしめ縄が据えられ、業者の出入りが見られた。トンネル入り口のあるフェンスの向こうに、車で乗り付けた作業員に工事はいつ始まるのか聞いてみた。まだ掘削はしていなくて、このトンネルから本坑トンネルも掘り進めていくのだという。
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ここから歩き進めると、V字型の渓谷が上流へと続く。Tさんがあんまり斜面に寄らないように注意する。川沿いの林道上にはいくつも落石が転がっていて、周囲の地形も崩壊地が目につく。現在も導水トンネルがアーチ状に川をまたいでいるのが下流から望める。リニアの路線は、この川の上方を橋梁でまたいで通過する。そして、南アルプスの山腹へと突入していく。この周辺は、山梨県の景観保全地区に指定されている。JR東海の環境影響評価書では、塗装などで気を使うので、景観への配慮はするということのようだ。
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さらに県道を北上すると、早川最後の集落、奈良田に着く。ここは南アルプスの最高峰で、日本でも第二の高峰の北岳の登山口、広河原へと至る登山バスの発着場で、温泉旅館もある秘湯だ。登山者以外にはドンづまりだったところが、山梨県はここから目の前の山にトンネルを掘って、山をまたいだ南アルプス市芦安側に道路を延ばすことを表明している。この周遊道路ができると、早川を南下してずっと遠回りして甲府方面に行っていたのが、ぐっと短縮されることになる。地元の人の悲願だったところ、実際にはそのトンネル建設にはJR東海がお金を出して、リニアトンネルから排出された残土をこのトンネルを使って反対側に運んで、駐車場を整備するのだという。
旅館の人は、「トンネルは作ってほしかったけど、リニアがらみかと思うと……一日900台も車が通るとなると、客は来なくなる。それも1年我慢すればいいという話じゃなくて10年も続く。首をくくれというのか」と当たり前の不安を表明していた。
ところが町長は大丈夫だというだけだし、JR東海の説明も、地区ごとの説明会をするという約束も守られず、何も知らされない。工事は着工といっても、東京ドーム3つ分の残土の置き場を町内だけで賄えるはずもないのに、周遊道路のトンネル工事も進んでいるようにも見えない。ここから先の道路は狭隘部分も多いという。その方の私有地も周辺にはあるし、土地買収も行われていない。ここに来るまでの橋は古い電源開発の道路で、14トンまでの車輛しか通過できない。当然20トンまで積載する工事車両は通過できない。
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疑問は膨らむばかりなのに、起工式や宿舎建設は進んで工事の体裁だけは整えられる。業者に仕事を回しているのだろうけれど、「実際のところ」の現実味がちっとも感じられない。それは、ずっとここに暮らしている宿のご主人と、はじめてここで話を聞くぼくたちと、どっちも同じだった。
こういうやり方は、各地でかえって反発を招いていて、リニア工事があちこちで小とん挫を積み重ねている原因にもなっている。「ご理解ください」と自分たちのやり方だけ押し付けて、理解してもらおうという気のない事業は、そのうち収拾がつかなくなるというのが流れになっているようだ。そうなったところで、工事業者は工事が続けば問題ない。実態がわかってリニアへの疑問が大きくなっても、今さら「リニア反対」とは言いにくいようだ。
この町の町長はすでに9期目で、この9月にある選挙で10選目を目指すという。町内には旅館や登山口などの観光施設も少なくないけど、採石工場など工事施設も少なくない。義務教育にかかる経費の完全無償化に取り組んでいる町だけれど、人口はずっと減り続けている。この町長が就任しただろう1980年ごろは3000人が今はその3分の1だ。これはこの町長の施政とは関係ない、世の流れ、ということなのだろうか。
自然との共生を掲げて、世界自然遺産を目指すのも、リニアとトンネルを通して町に仕事を持ってくるのも、どっちも世の流れなわけで、町長はその流れにうまく乗っているつもりなのだろうけど、どう考えても違う方向に引き寄せられる流れだと思う。本当に両方実現するのだろうか。というか、そのかじ取りでちゃんと岸に戻ってこられるのだろうか。
(宗像 充、「並木道」145号より、2016年3月発行)
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